『星屑のなかを雑念ワゴンで、ひとりっきり~逃げ道を確保せよ~』

|準備の8割が使えない時代の生き抜き方

 

思いっきり勘違いからはじまった、

「新宿ラブホ特集」取材捜査。

 

(前回参照 『星屑のなかを雑念ワゴンで、ひとりっきり〜チャンスはいきなり訪れる〜』 )

 
 

さて、

何事も思い通りにはいかないのは、

アナログ時代のマスコミにとって、

盛者必衰の理だ。

 
 
 

Googleマップみたいな便利ツールはない時代。

私たちライターを助けてくれたのは昭文社のマップルだ。

昔、お父さんの車に必携だった大きな地図を思う出す人もいるだろう。

 

我々、都市部取材班にとっての

タカラの地図を今回も開いてみた。

 
 

|光り輝く新宿の暗部であり、情が入り交じるエリア

 

目指すは「新宿・歌舞伎町の奥の院」

風林会館前の通りから職安通りまでの、

その間にあるのがラブホ密集地だ。

 
 

職安通りから新大久保までの地域にも

ラブホは林立するが、

こちらはビジネス系ラブホなので、

一般人はあまり立ち寄らない。

というよりも、

雑誌で紹介する雰囲気を持ち合わせていない。

 
 
 

さて、ラブホエリアの地図を開いてみた………。

 
 

「はっぁ!!!!!はぁ!!!!!?????」

 
 

私は大きな過ちに気づいた。

勝手に、昭文社が気を利かせて

「ホテル名」で地図を

作ってくれていると思っていたのだ。

しかし、現実はどうだろう。

 

「●●興業」「●●ビルディング」

などの表記ばかりで、ホテル名なんて出てこない。

 
 
 

「あれ?ホテルないじゃん?」

 
 
 

|地図は道が載っているのであって、建物が載っているわけではない

 

そもそも当時の地図は「道案内」であって、

「店舗案内」ではないのだ。

店名は出てこない代わりに、

ビル名か所有者名を記載するのが基本だったのだ。

 

さらに言えば、当時、

ラブホを運営しているのは強面な方々。

 

きっと、ここには怖い方々の会社名、

いや組織名であろう名前が並んでいたのだ。

 
 
 

まず、20歳そこそこの私は知らなかったのだ。

私たちを大人にしてくれた

あのネオンな建物が、

その実態は怖いお兄さんたちが

運営しているという事実に(当時)。

 

今やひとつのビジネスとして

成立しているのだろうが、

当時は反社会性力と言われる人たちが運営、

もしくは保護?しているホテルも多かったらしい。

 

昭文社に掲載されている会社名から

「104」に電話して聞いても、

これは取材なんてできっこない。

 
 

やはり、現地に行ってみよう、それしかない。

そう、私たち取材者の本分は”現場”にあるのだ。

 
 
 

|不穏なネオンと向き合う前に必要なこと

 

と、

事件を追う刑事のごとく、

現場へと向かうことにした。

 

バッグひとつで娑婆へ飛び出そうとする

若手刑事を先輩刑事が一喝する。

 

「いっしー、そのままいったら危ないよ」

 

一気に現実に引き戻される。

 

なんですか、やまさん、こっちは気分も高揚して一気にこの件にカタをつけたかったのに。

 

「歌舞伎で怖い人たちにあったときどうするのさ?」

 

は?

怖い人?

なにそれ??

と思いながら、たしかに危険な街、歌舞伎町。

俺は丸腰だった。

 

でも先輩、これは潜入捜査なので、

銃を携帯するわけにはいかないです。

 
 

「ほら、これ持って行きな」

 

こ、これは!??!

 

先輩編集者から手に渡されたのは、

小さな白い紙製の箱だった。

恐る恐る、箱のふたをあけると……

彼の名刺ボックスだった。

中身を確認すると、

彼の名刺がみっちり充填されている。

まるで弾倉に詰め込まれた銃弾のように。

 
 
 

|丸腰の私に渡された心強いリーサルウェポン

 
 

「あのさ、怖いお兄さんに呼び止められたら、

逃げるんだよ。

そんで、そのときにこれを1枚1枚、落として行くの。

そうしたら、俺のところに連絡くるじゃん?

一応、うち大きな出版社だから、

それ以上のことは言ってこないから大丈夫だろ」

 

なるほど……。

 

俺が逃げても、

この名刺を落とせば、

そっちに目がいって、俺が逃げられる。

そしてそのあとのことはこの先輩編集者がケツ持ちしてくれるわけか。

マスコミってすごい。

 
 
 

——と、これも後から気づいたことなのだが………

そもそも論、私が「逃げられる」という約束はない。

 

いや、もっと言えば、逃げなくても、

最初から名刺を見せて

「私はこういうもので、取材してます」

って言えばもっと安全ではないのか??

 

と、そんな疑問はまったく浮かばなかった。

ラブホというアンタッチャブルな世界に

足を踏み入れる興奮だけで、

沢木耕太郎気取りのワイルドな気分に

浸っていたのだろう——–

 
 
 

じゃ、先輩、行ってきます。

 

「おいおい、これだから若いヤツは(笑)」

 

とみんなに笑われた。

 

え? なんだ、これ以上、俺はなにか失態をしているのか?

 

「いっしーさ、現場で何を見てくるの?」

 

はっ……。

 

確かに、、

俺は現場に行って何をするつもりだったのだろう。

いきなり取材をお願いするにしても、

フロントのおぼさんは顔すら見せない。

あの顔が見えないフロント越しに

取材依頼しても、

やおら怖いお兄さんが出てくるに違いないんだ。(想像)

 

「まず見てくるのは………」

 

ここから現場の事件記者ならぬ、

ありとらゆる取材先をかいくぐってきた

先輩編集者の取材アドバイスがはじまるのだった……。

 
続く。
 
 
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